肝臓がんの原因・なりやすい人の特徴とは?|症状チェックと早期発見のポイント
肝臓がんは初期症状が少なく、気づかないうちに進行するケースが多い病気です。このページでは、肝臓がんの原因やなりやすい人の特徴、見逃しがちな症状、そして早期発見の重要性についてわかりやすく解説しています。
肝臓がんとは?
肝臓がんの割合は
多くないが、生存率が低い
肝臓は、腹部の右上からみぞおち辺りに位置し、肋骨の内側に収められている重要な臓器です。体内で必要な物質を生成したり、エネルギーを蓄えたり、有害な物質を解毒・排出するなど、多岐にわたる機能を果たしております。
肝臓がんに罹る確率は男性が女性の2倍と多いのが特徴です。また、肝臓がんは高齢になるほど注意が必要です。下図に示すように、特に男性では50代から患者数が増加し、80代後半にかけて急速に増加する傾向が見られます。
肝臓がんは治療が困難で予後が厳しい傾向があります。2015年のデータによると、ステージIの生存率は63.2%であり、初期段階でも高くないことが明らかになっています。ただし、ステージIIでは45.2%、ステージIIIでは17.4%、ステージIVでは5.6%と段階が進むほど生存率が著しく低下しています。したがって、肝臓がんを予防するためには、それが進行する前に早期発見が重要です。肝臓がんの早期段階については、次の項目で詳しく説明します。
肝臓がんは慢性肝炎・
肝硬変の早期発見・治療を
通して予防できます
肝臓がんは、通常、慢性肝炎や肝硬変の状態を経て発症することがよく見られるがんです。慢性肝炎は、主に肝炎ウイルスに感染することが原因で起こる疾患で、免疫反応によって肝臓が炎症を起こすことがあります。慢性肝炎を発症すると、肝細胞が損傷した部分に線維が蓄積して、徐々に肝臓全体に広がっていきます。その結果、肝臓が硬くなる肝硬変という状態になります。肝硬変が悪化すると、肝臓がんの発症リスクが高くなります。
肝硬変を発症する原因として慢性肝炎が挙げられますが、近年では脂肪肝炎も話題になっております。脂肪肝炎とは、肝臓に炎症を引き起こす脂肪肝によって引き起こされる状態であり、これが肝硬変、そして肝臓がんへ発展するリスクになることがあります。そのため、肝臓がんを防ぐためには、慢性肝炎や脂肪肝炎、肝硬変を早く見つけ出し、早くから治療することが大切です。
肝臓がん・肝硬変のリスクを高める肝臓病とその原因
肝硬変の前段階 | 主な原因 |
---|---|
ウイルス性慢性肝炎 | ・B型肝炎ウイルス(HBV) ・C型肝炎ウイルス(HCV) など |
非ウイルス性肝炎 | ・アルコール性脂肪肝炎:多量飲酒 ・非アルコール性脂肪肝炎(NASH、MASH):肥満、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、脂質異常症、高血圧症 など ・その他(自己免疫性肝炎等) |
非アルコール性脂肪肝炎の詳細については、後の項目で紹介します。
肝臓がんの原因で最も多いのは肝炎ウイルス
肝臓がんは通常、肝細胞がん(全体の90%)を指します。原因は主にウイルス性と非ウイルス性に大別されます。もともとウイルス性によるものが多かったですが、C型肝炎治療の向上などもあり、現在は非ウイルス性肝細胞がんが急増し、現在では約半数となっています。
非ウイルス性は大きく分けて2種類あり、アルコール性と非アルコール性に分かれています。2011〜2015年に診断された非ウイルス性の肝臓がん患者を調査した結果、最も多く見られた原因はアルコール性で、その割合は32.3%でした。次に高い頻度で見られるのが、脂肪性肝疾患、いわゆる脂肪肝であり、その割合は15.1%と報告されています。
生活習慣の乱れ・ストレスから発症する肝臓がんが
増加しています
近年では技術の進歩により、肝臓がんの原因で最多とされていたC型肝炎ウイルスに感染した患者様の95%以上が完治できるようになりました。それによりウイルス性肝臓がんは減少傾向にあります。
一方、急増しているのが脂肪性肝疾患による肝臓がんです。生活習慣の変化やストレス、運動不足によって、アルコールを摂取しない方でも脂肪肝になるリスクがあります。また、糖尿病、脂質異常症、肥満、メタボリックシンドロームと併発することも珍しくありません(MASLD/MASH)。
MASHはMASLDの一種であり、肝臓の損傷が進行した状態を指します。MASLDの中でも、MASHは肝臓がんの発症リスクが高いため、放置すれば10年後には10~20%が肝硬変となり、数%の確率で肝臓がんを発症するとされています。脂肪肝を持っている方で、肝細胞がんのリスクが高い方を見つけ、早期に治療介入する必要があります。
肝臓がんになりやすい人
肝臓がんになりやすい人には、いくつかの特徴があります。以下のようなリスク要因を持つ人は、肝臓がんになる可能性が高くなるので、注意が必要です。
肝炎ウイルスに
感染している人
B型やC型の肝炎ウイルスに感染していると、長期的に肝臓にダメージを与え、肝硬変を経て肝臓がんを引き起こすことがあります。特にC型肝炎は肝臓がんの主な原因の一つです。
アルコールを大量に
摂取している人
長期間にわたって過度なアルコール摂取を続けていると、アルコール性肝疾患が進行し、最終的に肝硬変や肝臓がんを引き起こすことがあります。
脂肪肝や糖尿病がある人
肥満や糖尿病があると、肝臓に脂肪がたまりやすくなり、これが進行すると肝臓に炎症を引き起こして肝硬変を招くことがあります。これも肝臓がんのリスクを高めます。近年、糖尿病治療薬であるGLP-1受容体アナログやSGLT2阻害薬により肝硬変の進展予防や肝炎の改善効果などの報告もあり、専門的な治療が可能となっています。
肝臓がんの症状チェック
肝臓は、炎症やがんによって機能が低下しても、症状が現れにくい臓器です。そのため、「沈黙の臓器」とも呼ばれ、健康診断や他の疾患の検査で偶然に発見されることが多いです。肝臓がんの初期段階では症状は非常に希ですが、進行すると、腹部にしこりや痛み、圧迫感などが現れることがあります。このため、肝臓がんを早期に発見するためには、症状を待つのではなく、検査を通じて前段階の慢性肝炎や肝硬変を早期に見つけることが重要です。
慢性肝炎や肝硬変の初期段階でも、症状はほとんど現れません。慢性肝炎は、ウイルス性肝炎や脂肪肝であっても症状が現れにくく、もし症状が出る場合でも、食欲不振やむくみ、倦怠感などは他の疾患でも見られるため、見逃されがちです。健康診断や人間ドックでの血液検査で発見されることが多いです。したがって、慢性肝炎を早期に発見するためには、症状に頼るのではなく、適切な検査を受けることが大切です。
肝硬変が進行すると、以下のような症状が現れることがあります。慢性肝炎の症状と一部重なることもありますが、腹水や黄疸など、肝硬変特有の症状も見られます。

- 疲れやすさや倦怠感
- 足のむくみ
- 腹水による腹部の張りや膨満感
- 夜中から明け方にふくらはぎがつる(こむら返り)
- 首や胸、頬に赤い斑点ができる
- 手のひらの両側(親指と小指の付け根)が赤くなる
- 臍周りの静脈が拡張している
- 黄疸によって白目が黄色くなる
- 手が震える(肝性脳症の症状の1つ)
- (男性の場合)乳房が肥大化する
- (男性の場合)睾丸が縮小する
上記の症状が現れた場合は、速やかに内科や消化器内科を受診することをお勧めします。
肝臓がんの手遅れの症状について
肝臓がんの進行状況や転移の診断には、腹部超音波検査やCT、MRIなどの画像検査、さらには血液検査が有用です。CTやMRIでは、がんの転移の有無や腹水の状況を評価することができます。造影剤を併用することで、さらに精度の高い診断が期待できます。血液検査では、腫瘍マーカーの濃度からがんの進行度や治療効果を評価したり、ALT(GPT)、AST(GOT)、γGTPなどの数値を通じて肝機能の状態を確認したりすることが可能です。
肝臓がんの原因別の割合
肝臓がんには、肝臓そのものに生じた原発性肝臓がんと、他の臓器のがんが転移して生じた転移性肝臓がんの2種類があります。原発性肝臓がんのうち90%は肝細胞内に生じる肝細胞がんであり、残りの10%は胆管の細胞から生じる胆管細胞がんです。
肝細胞がんの原因としては、肝炎ウイルスの感染、アルコール関連性肝疾患、脂肪性肝疾患(脂肪肝)、自己免疫疾患による自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎などが挙げられます。
肝がんと肝炎ウイルス
以前は肝細胞がんの原因の70%弱がC型肝炎、20%弱がB型肝炎のウイルス感染とされていました。現在は治療方法の進歩により、発がんリスクを下げることに成功しています。
B型肝炎ウイルス
B型肝炎ウイルス感染から慢性肝炎や肝硬変を発症した結果、がんに進展するケースがほとんどです。時折、ウイルスが肝臓の細胞遺伝子に侵入して発がんの引き金となることがあり、その場合は肝機能が比較的良好な段階からがんが進行する可能性もあります。そのため、核酸アナログ製剤を主とした抗ウイルス療法とともに慢性肝炎やキャリアの状態でも、定期的な画像検査が必要となってきます。
C型肝炎ウイルス
C型肝炎は血液や体液を介して感染します。 急性肝炎から慢性肝炎への進行率が高いのが特徴です。感染後20〜30年経つと、慢性肝炎や肝硬変からがんへ進展することが多いとされています。しかし近年では、HCVウイルス蛋白を直接ターゲットとしたDAAs製剤が登場し、ほぼ100%近いウイルス排除が可能となっています。
脂肪性肝疾患(脂肪肝)
肝がんの原因の10%を占め、かつて注目されているものに、「非アルコール性脂肪性肝炎(Non-alcoholic steatohepatitis; NASH)」があります。NASHは肥満や糖尿病、高血圧などの生活習慣病を発症している方を中心に、患者数が増加している病気です。近年は、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病との関連を重視し、MASLD: Metabolic Dysfunction-Associated Steatotic Liver DiseaseやMASH:Metabolic Dysfunction Associated Steatohepatitis
と呼ばれる新しい診断名が使用されています。脂肪肝の中でも、炎症が強くないか、肝硬変への進展や肝がんの発生リスクが高くないかを判断することが非常に重要であり、まずは専門医による精査がすすめられています。
過度なダイエットやリバウンドによって、脂肪肝へ移行するケースもあるため、痩せている方やアルコールを摂取しない方でも、絶対に肝がんのリスクがゼロとは言い切れません。生活習慣や食事を改善し、脂肪肝から脂肪性肝炎への進行を食い止める必要があります。
肝臓がんの検査・診断方法
肝臓がんは、早期に発見できれば治療の選択肢が広がり、予後も改善する可能性が高まります。しかし、初期の段階では症状がほとんどないため、定期的な検査が重要です。当院では、肝臓がんを早期に見つけるための検査を、患者さま一人ひとりに合わせて実施しています。
腹部超音波検査(エコー)
まず、肝臓がんの検査として、腹部超音波検査(エコー)を行います。これは、肝臓の状態を非侵襲的に調べるための最初のステップです。超音波を使って、肝臓の形や大きさ、腫瘍の有無を確認できます。定期的にエコー検査を受けることで、肝臓がんの早期発見につながります。
肝臓の血液検査
また、肝機能を調べるための血液検査も重要です。肝臓がんに関連する腫瘍マーカー(AFPなど)を測定することで、がんの兆候を早期に把握できます。ただし、これらの値は必ずしもがんを確定するものではないため、他の検査と組み合わせて総合的に評価します。
CT・MRI検査
もし、超音波検査や血液検査で異常が見つかった場合、さらに詳細な検査が必要です。CTやMRIは、肝臓がんの存在を確認し、がんの大きさや位置、転移の有無を正確に把握するために有効です。当院では、これらの大きな検査が必要な場合には、連携している医療機関に紹介し、専門的な検査を受けていただきます。
肝臓がんの治療
定期的なモニタリングと
経過観察
当院では、肝臓がんの早期発見を目指して、定期的な超音波検査や血液検査を行い、肝臓の状態を経過観察しています。特に肝臓がんのリスクが高い患者さまには、定期的な検査を通じてがんの進行を早期に発見し、必要に応じて速やかな対応をさせていただきます。
生活習慣の改善指導
肝臓がん予防には、生活習慣の改善が不可欠です。患者さま一人ひとりの生活習慣に合わせて、健康的な食事や適切な運動の指導を行い、肝臓に負担をかけない生活をサポートしています。アルコールの摂取制限や体重管理を通じて、肝臓がんのリスクを減らすことができます。
薬物療法によるサポート
当院では、肝臓がんによる症状や合併症を和らげるための薬物療法を提供いたします。
肝機能をサポートする薬や、肝炎ウイルスの治療薬、さらには痛みを和らげるための鎮痛薬を処方し、患者さまが少しでも快適に過ごせるよう支援します。
専門施設への紹介
肝臓がんが発見された場合は、当院では大きな病院や専門医療機関への紹介を行っています。肝臓がんの外科的治療や化学療法、ラジオ波焼灼療法(RFA)など、専門的な治療が必要な場合に、適切な医療機関へスムーズにご案内いたします。